第10回フィールドフォースカップは、茎崎ファイターズ(茨城・つくば市)の2年連続3回目の優勝で閉幕した。『全国予選に向けたガチンコ勝負』を掲げて2015年にスタートした大会は年々、競争激化でハイレベルに。節目の第10回大会は、新6年生たちのハイパフォーマンスと、それを引き出すベンチワークも印象的だった。
(動画&写真&文=大久保克哉)
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2015年の第1回大会は高島エイトが優勝。写真は閉会式
フィールドフォースカップは、自主対戦決式で12月から各地で始まる。正規のトーナメントと、敗者復活トーナメントがそれぞれ進行。そして2月の大会最終日には、各4強の8チームが集い、最終順位を決する。どのチームも最低2試合はできるのも特徴だ。
開催方式の定着とともに、レベルが上がってきていることは今大会の結果からも見て取れた。昨秋の新人戦で都準Vの旗の台クラブ(品川区)や、同じく埼玉準Vの山野ガッツ(越谷市)など有力チームが最終日を前に敗退。また竹仲(東京・足立区)、有馬スワローズ(東京・中央区)などの全国出場組は敗者復活戦でも勝ち進めなかった。
茎崎ファイターズは過去2回、優勝した年の夏に全国出場している。今夏は!?
今大会を制した茎崎ファイターズの吉田祐司監督は、大会参戦による変化をこう語る。
「昔は1月、2月は練習が中心でしたけど、フィールドフォースカップに出るようになってから練習試合も入れるように。その分、仕上がりの段階も早くなってきていますね」
熊谷グリーンタウン(埼玉・熊谷市)との決勝は、全国大会さながらのハイレベルな好勝負となった(既報)。これを大逆転で制した茎崎は選手個々の能力の高さもさることながら、会場入りから試合開始までのウォーミングアップも特筆するべきものだった。担当する小林拓真コーチが語る。
「ウチは輪になっての体操とか並んで順番にダッシュとかはやっていません。寒い中で、いかに早く体を温めるか。あとは関節の可動域とか機能性を高めることも考えています」
今大会に限らないが、茎崎は試合前のアップから斬新な取り組みが見られた
個々に縄跳びなどをしてからグラウンドに入った選手たちは、地面のマーカーや手作りのボールを使いながら、360度全方向への動き出しや股関節の屈伸動作などを反復。時間で区切っての競争もあり、自ずと笑顔も広がった。これだけでも、指導陣がどれだけ子どもの体やトレーニングについて学んでいるかが読み取れる。
「いつも野球が楽しい!」
選手のパフォーマンスを引き出す、という点では3位の葛西ファイターズ(東京・江戸川区)と、4位の草加ボーイズ(埼玉・草加市)のベンチワークも際立っていた。
2020年の第6回大会以来の4強進出となった葛西は、準決勝では全国3位の実績もある熊谷と一進一退の激戦を展開(4対7で敗北)。序盤戦はボールが手につかない様子でミスも散見されたが、平野秀忠監督は笑みを絶やさずに前向きな指示を送り、「これが点取り合戦、楽しまなきゃ!」とコーチ陣は盛り上げ役に徹していた。また、対戦相手でも好プレーはその場で称えるなど、スポーツマンシップの浸透は見守る保護者たちの声援からも感じ取ることができた。
チームOBでもある葛西・平野監督。安心を招くような柔和な笑顔も印象的
「小学生の指導で大切なのは、中・高でも野球をやりたいと思えるようにしてあげることだと思います。そのためには、楽しく野球をやること。もちろん、勝つことも楽しいでしょうし、逆にダラダラとやっても楽しくないでしょうから締めるところは締める。バランスを大事にしています」
こう語る平野監督は、1974年に創部したチームのOBでもある。現在の学童部は、ほぼ学年別で5チームが活動する。どのカテゴリーも、背番号30の監督だけは保護者以外が務めるのが伝統で、平野監督も父親コーチを経て監督に。「ウチはお父さんコーチも基本的にやさしくて、みなさん理解があります。その上で、指導が偏らないように監督がバランスをとっている感じ」(同監督)
準決勝に続いて3位決定戦でもサク越え3ランで勝利に貢献し、優秀選手に輝いた木竜夢翔は「野球が楽しい!」と言って続けた。
「速いライナーを打つことをいつも心掛けていますけど、この大会ではそれがホームランになったりして結構、自信が持てました。失敗やミスをしても、ベンチから『ドンマイ!』とか『切り替えていこう!』とか言ってくれるし、ランニングとか苦しいのはイヤなときもあるけど、いつも楽しいです。江戸川大会でも速い打球を打ちたいです」
夏の全日本学童大会の最初の予選となる江戸川大会は3月18日に開幕する。62チームが参戦する都内随一の大激戦区だが、今大会では旗の台クラブに勝利するなど、都大会上位クラスにあることが証明されている。
「全国に行かないとできないようなチームとも対戦できて、レベルの高さも体感した有意義な大会でした。目標の都大会に進めるように経験を生かしたいです」(平野監督)
「やればできる!」
その葛西と草加による3位決定戦(7対4で葛西が勝利)では、試合中に草加の選手がダウンするアクシデントがあった。同チームの本村洋平監督が回想する。
「風邪で病み上がりの子が、具合が悪くなってきて『トイレに行く』とグラウンドを出たところで倒れてしまい…」
幸いに軽い脱水症状で、同選手はすでに元気に回復しているという。この緊急事態で適切な介抱をしたのが対戦相手、葛西で背番号29をつけていた菅原勇正コーチだった。
「後で監督を通じてお礼を伝えたんですけど、あのコーチはプロの救急救命士だそうで。敵味方もなく、率先してご対応いただいたことで試合中断も5分間くらいで済みました。ホントに感謝しています」(本村監督)
息子は昨年で卒団。27期生の新6年生たちを率いる草加・本村監督
草加は2017年から2年連続の3位が大会最高成績で、4強進出は2018年以来6年ぶり。経験豊富な新6年生5人と11人の新5年生を中心に、大目標の県大会優勝を見据えている。コーチから転じて就任1年目の本村監督の方針は明快だ。
「練習は厳しく、できるまでやる。そして試合では何があってもそれが実力なので、ミスしても怒ることはないし、『ダメなら練習でもう1回やりましょう!』と」
全国準Vの実績もある茎崎との準決勝は序盤から失点を重ね、1対10の大差に。それでも最後の攻撃となった5回表の前には、ベンチ前の円陣で指揮官だけが笑っていた(下写真)。
「今年の子たちは感受性がものすごく豊かなんです。うれしいときは喜び過ぎだろというくらいだし、負けていると泣いてしまう子もいるし、諦める雰囲気もある。なので、監督としては(劣勢でも)動じてないよ、『キミたちならやればできる!』という意味で意識的に笑顔に」
指揮官のその想いは、選手に響いていたのかもしれない。3位決定戦も序盤で0対6と大差ビハインドで、5回終了時点で1対7に。それでも最終6回裏、打線がつながって鈴木健太主将が3ランを放って意地を見せた。
自主対戦決式の準々決勝では粘投。3位決定戦では3ランを放って優秀賞にも輝いた草加・鈴木主将(写真は準決勝)
「とにかく諦めなければ何とかなる。次につなげよう、という意志を彼らから感じました。全国予選は2年連続で埼玉大会まで行っているので、今年も続きたいと思います」(本村監督)
草加市大会は3月31日に開幕予定だ。
敗者復活トーナメントは、豊上ジュニアーズ(千葉・柏市)が優勝。昨年は準決勝で同県の海神スパローズ(船橋市)に惜敗したが、同じ相手を今大会決勝では4回コールドで一蹴した。また、その豊上に準決勝で惜敗した吉川ウイングス(埼玉・吉川市)が3位に入っている。
昨秋新人戦でオール東海ジュニアの茨城大会優勝に貢献したエース・湊陽翔は、新年度を前に埼玉県へ転居。これに伴い、吉川ウイングスでプレーしている
【個人表彰】
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▶最優秀選手賞
藤城拓翔[茎崎ファイターズ]
※副賞『FFオーダーグラブ券』
▶優秀選手賞
林 和磨[熊谷グリーンタウン]
木竜 夢翔[葛西ファイターズ]
鈴木 健太[草加ボーイズ]
岡田 悠充[豊上ジュニアーズ]
根岸 隼[海神スパローズ]
小玉 荘介[吉川ウイングス]
桑江陽大朗[オール麻布]
※副賞『グラブ保形ケース」
■林和磨「うれしいです。準決勝で先発して4回まで粘って投げることができました。あとはセンター前にタイムリーを1本。熊谷市の大会で優勝して、埼玉県の大会も油症して全国大会に出たいです」
■桑江陽大朗「すごくうれしいです。この大会ではホームラン3本、今日(最終日)は2本打ちました。通算? 50本くらい。今は(地元の)港区はレガシー(高価な複合型バット)禁止なので、木のバットで打っています。巨人Jr.に入りたいです」